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日本語教育の輪
Vol.01神吉宇一さん
武蔵野大学
日本語教育学会元副会長
日本語教育推進法改正に貢献
CASIO日本語教育ポータルサイトのオープン、おめでとうございます。ちょうど、私が日本語教育学会の副会長をしていたころですから、もう10年近く前でしょうか、「CASIOとして日本語教育に貢献したい」という熱い思いを聞かせていただき、いろんな方をご紹介しました。その後、武蔵野美術大学との産学連携の取り組みである「にっぽん多文化共生発信プロジェクト」が立ち上がり、私もいろいろな形でこのプロジェクトのお手伝いをさせてもらいました。今回、日本語教育の取り組みの社会的価値を訴求するポータルサイトの立ち上げが実現したこと、また新しい電子辞書が開発され販売が開始されること、本当におめでとうございます。
日本政府の外国人受け入れ促進の政策的動向に関連して、日本社会では滞在が長期化する外国人が今後増加すると考えられています。日本に暮らす外国人との共生社会をどのようにつくっていくのか、日本語教育に課せられた社会的な役割は重要性を増しています。
一方で、世界的には外国語教育=英語教育という色がますます濃くなってきており、母語としての英語話者がさほど多くない国でも、高等教育機関の教育をすべて英語で行うところが増えてきています。さらに、生成AIの飛躍的な発達により、外国語がわからなくても機械翻訳を活用することで、相当程度の理解や発信が可能になってきています。では、日本語教育・日本語学習はもう必要ないのでしょうか。
ことばを学びことばを使うということは、私たち人間にとってどんな意味を持つのでしょうか。そもそも、ことばはなんのためにあるのでしょうか。ことばに関するすべてのことを「便利な機械翻訳に任せればいい」とはならないでしょう。人間にとってことばとはなにか、これからのことばの教育は、この本質的な問いに常に向き合うことが求められていくと思います。そのような中、日本語教育の社会的価値を発信してくださることを大いに期待しています。
Vol.02三代純平さん
武蔵野美術大学
MUSABI産学プロジェクト推進(2017~2024)
ALICE言語文化教育研究会会長
「CASIO日本語学習用電子辞書」発売おめでとうございます!
CASIOとムサビの産学連携「にっぽん多文化共生発信プロジェクト」がはじまって今年で8年目。最初のきっかけは、日本語学習者用電子辞書の開発に向けたヒアリング調査として小川さんがムサビを訪れてくれたことでした。その電子辞書がついに世に出るとのこと、大変感慨深く思います。
ヒアリング調査の際に意気投合し、はじまった産学連携も8回を重ねています。ますます多文化化する日本社会の現状、そして、共生社会の実現に向けた取り組みをいっしょに取材し、社会へ発信していくこのプロジェクトを通じて、私自身も多くのすばらしい方たちに出会うことができました。貴重な機会を提供してくださったCASIOに改めて感謝申し上げます。プロジェクトを重ね、改めて思うのは、「出会い」が人を育てるということです。その成長の中にことばの学びもあります。プロジェクトを通じて、共生社会の実現に尽力する方たちに触れ、その想いを共有することで学生たちの目の色は変わっていきます。語ることばも変わっていきます。日本語教育は、このような「出会い」のデザインの場だと思います。そして、この電子辞書が、日本語教育の場で、新しい出会いを後押ししてくれるメディアになっていくことを願っています!
Vol.03嶋田和子さん
アクラス日本語教育研究所 代表理事
日本語教育学会 元副会長・現監事
「CASIO日本語学習用電子辞書」、ついに誕生!
これは、「日本語学習者が楽しく、効果的に学習に取り組めるお手伝いをしたい!」というプロジェクトの熱い想いから生まれました。何年もかけ、現状を調査し、現場に足を運び、さまざまな方々との対話を重ねた末に完成した逸品です。
CASIOが日本語教育事業戦略を開始したのは2015年、あれから10年近くの月日が流れました。当時、日本語教育学会の執行部にいた私は、さまざまな形でお会いしてお話をする機会に恵まれました。年2回の大会のみならず、国際研究大会にもご参加、多くの日本語教育関係者が、CASIOの方々とつながり、対話を楽しみました。
電子辞書を手に、「いろんな人達に、日本の文化を知ってもらいたい。日本のことばを学んでほしいんです」と語る小川さんに、その想いの源についてお尋ねしてみました。すると、「香港への3年間の赴任中、現地の人にいろんな形でサポートしてもらいました。その時の恩返しを、何らかの形でしたいと思っていました」という答えが返ってきました。折しもASEANの学習者が増えた時期と重なり、そうした方々のサポートをしたいという思いが膨らんでいったのだそうです。
そして、<CASIO×MAU 産学共同プロジェクト>がスタートしたのは2017年、その後のコロナ禍でもずっと続き、今に至っています。こうしたCASIOの柔軟な活動姿勢、人と人をつなぐ力が新たな電子辞書を生み出しました。
辞書も教科書も、それぞれの学習者が自分に合った使い方をすることが大切であり、また、「そこに在る物」ではなく、みんなで育て続けていくものだと考えます。この電子辞書を通して、日本語学習者のすそ野がさらに広がり、新たなつながりが生まれることを願っています。
皆さま、ちょっと電子辞書を手に取って、「どんな使い方ができるかな?」と、思いをめぐらせてみませんか。きっと<わくわくする世界>が待っていることでしょう。
Vol.04笈川幸司さん
NPO法人日本語スピーチ協会
『日本語講演マラソン』世界で講演
世界が尊敬する100人の日本人選出
2001年からの20年間、いわば、私は中国の黄金時代を見てきた生き証人です。その間、中国の日本語学習者の日本語力向上のサポートをされていたのが、CASIO電子辞書でした。
2005年、当時私が北京大学で教鞭をとっていた時、北京大学で日本語アフレコ大会が行われ、その大会スポンサーがCASIOさんでした。
2008年、私が清華大学で教鞭をとっていた時、清華大学でCASIO電子辞書日本語プレゼン大会が開催され、私の教え子たちがCASIOさんへ提案スピーチをしました。
2011年、私は日本語学習方法をテーマに講演を行う活動を始め、資金援助をしてくださったのもCASIOさんです。そのおかげで、中国110都市398校、その他、世界53カ国地域で日本語のスピーチ活動を行うことができました。
昨年は、コスタリカとベルギー、今年は、フィリピン、シンガポール、マレーシア、ベトナム、アメリカ、フィジー、トリニダード・トバゴでスピーチ活動を行い、CASIO電子辞書を提供していただきました。今後もCASIOさんと一緒に、200カ国地域で日本語の普及につとめたいと思っています。
Vol.05川村よし子さん
東京国際大学元教授
リーディング チュウ太くんの母
日本語読解支援システム「チュウ太プロジェクト」
「チュウ太の母です。」ヨーロッパをはじめ、世界各国のセミナーは、こんな自己紹介から始めています。我が家は娘一人だったため、チュウ太は「末っ子長男」です。
そんなチュウ太の「開発秘話を」とCASIOさんから依頼されたら、Yesと答えるしか選択肢はありません。というわけで、どのようにチュウ太が誕生したか、ご紹介したいと思います。
実は、チュウ太には父親が3人います。『リーディング・チュウ太』の原型を考えるきっかけを与えてくれた北村達也氏、立ち上げ当初からシステム開発を一手に引き受けてくれた保原麗氏、基本理念や運用について貴重な助言を与えてくれた夫=川村ヒサオ、この3人の存在がなければチュウ太はここまで成長できませんでした。
そして・・・(続きは以下のPDFファイルをご覧ください)
Vol.06長山和夫さん
一般財団法人日本国際協力センター
多文化共生事業部長
「日本語教育の未来をサポートします」CASIO日本語教育サイトのこのメッセージを、とても頼もしく感じます。
私たち日本国際協力センターでは、「外国人就労・定着支援研修」(厚生労働省事業)や、「外国人財とともに働くための総合サポート」(独自事業)、「就労者に対する日本語教師初任者研修」(文部科学省事業)等、就労分野の日本語教育事業を中心に、様々な多文化共生事業を実施しています。
今後、更に、多文化共生の取組を進めていかなければならない日本社会にとって、従来の日本語教育の機関や体制だけでなく、様々な形での日本語教育の担い手や、ネットワークが相当規模で必要になってくると感じています。CASIOさんの日本語教育と様々な機関とのネットワークが飛躍的に発展していくこと願っています。人手不足・人口減少が急激に進んでいく日本の各自治体は、外国人材の単なる受入から、積極的な誘致・定着へ施策を転換して行っています。職場での活躍・定着、地域での活躍・定着のためには日本語教育は欠かせませんが、この日本語教育は、外国人のために必要と言うよりは、日本社会のために必要なことだと、私たちの就労分野の日本語教育の現場でも、ひしひしと感じています。日本語教育は、多文化共生社会を作っていくために必要な、文化的な仲介者の役割を果たすからです。
Vol.07伊藤秀明さん
筑波大学人文社会系助教授
筑波大学グローバル
コミュニケーション教育センター
日本語・日本事情遠隔教育拠点
私が初めてこのプロジェクトのことを知ったのは、2022年6月に「チュウ太の母」こと川村よし子先生からのご紹介で、CASIOのご担当者さまからメールをいただいたことがきっかけでした。当時は新型コロナウィルスによる蔓延防止等重点措置(通称、まん防)が3ヶ月ほど前に解除されたことにより留学生の移動も本格的に再開され、様々なオンラインコンテンツの教育活用が改めて見直されている時期でもあり、未来を見据えて意見交換をさせていただいたことを覚えています。この度、当時も話されていた成果の一つが「Ex-word XD-JP10」として結実されたとのこと、本当におめでとうございます。 過去の思い出話をするのも大切ですが、せっかくの機会ですので、ここでは未来の話をしたいと思います。私は「筑波大学グローバルコミュニケーション教育センター日本語・日本事情遠隔教育拠点」で様々な日本語教育に関わるオンラインコンテンツの開発に関わってきました。ですので、今回は「Ex-word XD-JP10」を届けていただいた際に、率直に「オンラインコンテンツやスマホ・タブレットが普及する中で、今後の電子辞書の立ち位置をどう考えるべきだと思いますか」とCASIOのご担当者さまの個人的な見解としてお伺いしてみました。ご担当者さまからの回答は「オンラインコンテンツもスマホ・タブレットも敵ではないんです。私たちが目指すのは共存共栄です」というものでした。近代日本で初めて留学生を受け入れ、本学の前身である高等師範学校・東京高等師範学校の校長を務められた嘉納治五郎先生は「自他共栄」という言葉を残されています。その意は「相互に協調していくことで自身の行動が自分のためになるだけではなく、他者も益を得ることになり、共に幸福を得ることができる」というものです。スマホやタブレットをインターネットにつなぐことで世界中にあるリソースを活用して学べる環境、一方、電子辞書という小型機械の中にインターネット環境などない場所でも手書きや音声、イラスト、問題集などのコンテンツで学べる環境。多様化する学習環境を考えても「どちらか一つで十分ということない」というのは明らかです。これからもそれぞれの立場でお互いに自他共栄をめざし、日本国内・海外の日本語学習者の学習環境を支え続ける存在であることを願っています。
Vol.08kimさん
愉快な天気の秋学期を名古屋の南山大学で過ごして帰国したばかりの2004年の冬、スウェーデンの寒い吹雪の夜、地下鉄に乗りながら電子辞書を使って日本語を勉強していました。すると、いきなりパキッと音がして、キーボードと画面を繋ぐケーブルが凍って割れてしまい、長く愛用した電子辞書が使えなくなりました。 それが日本語学習者向け和英辞典の Jisho.org を作ることになったきっかけです。当時プログラミングも勉強していて、電子辞書並みの使い良さをウェブ上でも再現したいと思い、やがて今となっては20年にもなる終わりのない旅に出ることになったのです。Jisho.org を設計するときは自分に「辞書って何だろう」と常に聞いています。紙の辞書は主に単語や漢字のリストに過ぎないけれども、デジタルのリソースとしては「ページ」という概念がそもそも違います。
そして・・・(続きは以下のPDFファイルをご覧ください)
Vol.09西尾亜希子さん
A to Zランゲージセンター
25年前に日本語教師としてマレーシアに渡り、20年前にA to Zランゲージセンターを立ち上げました。学校を経営しながら今もまだ教壇に立ち続けているのは、日本語教師という仕事を心から愛しているからです。こんなにやりがいのある仕事はなかなかありません。教えることを通じて教えられることもとても多いですし、生徒たちの日本語力がどんどん向上していく様子が間近でみられるのは何物にも代えがたい喜びです。
AIの発達により日本語教師という仕事は必要なくなるのではないか、という質問を時々されますが、わたしは決してなくならないと思っています。自動運転が主流になり人間が運転をする必要がなくなったとしても、自動車が好きで自分で運転したいという人はいなくならないでしょう。それと同様に、翻訳通訳の精度が上がり、AIを通じたコミュニケーションが自由にできる世の中になったとしても、日本語が好きで日本語を学び、身につけたいと思う人はいなくならないと思います。
知識を身につけること、身につけた知識を使うこと、それを通して人とつながれるということは、とても魅力的なことです。学習のモチベーション維持のために、わたしたちはスピーチコンテストや交流会、お祭りなどのイベントを多く実施しています。今後も日本、日本語、日本語学習の魅力を発信し、日本ファン、日本語ファンを増やし続けていきたいです。
Vol.10奥田純子さん
コミュニカ学院
日本語教育の輪、メビウスの帯
CASIO日本語教育ポータルサイトのオープン、そして、「CASIO日本語学習用電子辞書」の発売、誠におめでとうございます。故奥田純子もこの日を心からお祝いしていることと思います。「日本語教育の輪」、なんと素敵なネーミングでしょう。輪と輪がつながり、人の関係が広がり、新たなネットワークが生まれる。その輪は時空を超えて過去と現在と未来をつないでくれる。いろいろな方とお話をさせていただいていると、そうした「輪」の中にいるのを、しみじみと感じます。奥田はよく、「私たちは真空の中で生きるのではない。時間、空間が織りなす網の目の中で、今ここの文脈を生きている。その関係はエッシャーのだまし絵のようにねじれて、さらに不思議な次元でつながり合っている」というようなことを言っていました。その意味を今、かみしめています。
コミュニカ学院と「奥田純子ゆめ基金」を通じて、たくさんの方々とお会いしますが、聞いてみると、昔から奥田と親しくされていて、こんなこと、あんなことがあったとお話しくださる。そのエピソードは、私の知る奥田像とぴったり重なって、かつて自分もその輪の中にいたように懐かしい気持ちになる。そんな不思議な経験をたくさん致しました。そんなふうに、奥田が残してくれた大切な輪の一つが、「奥田純子ゆめ基金」にも協賛くださっている、CASIOの小川さんとのご縁です。先進的な技術で世界を結び、日本語教育の輪を広げていこうとする熱い思いに賛同し、この輪がさらに多様な次元で、重層的に広がっていくことを祈念しております。
(コミュニカ学院顧問、「奥田純子ゆめ基金」事務局 竹田悦子代筆)
Vol.11伊東祐郎さん
国際教養大学専門職大学院特命教授
公益社団法人日本語教育学会元会長
日本語教育の未来とICTの可能性
日本語教育は、今、転換期を迎えています。学習者の多様化、オンライン学習の普及、さらにはAIを活用した新たな教育ツールの登場など、日本語を学ぶ場や方法が急速に変化しています。このような状況下で、ICT技術の進展は日本語教育に新たな可能性を切り開く鍵となっています。
長年日本語教育に携わる中で感じているのは、ICTの活用が学習者一人ひとりに適した学びを提供し、学びの質を高める可能性を秘めているということです。例えば、現在の電子辞書は辞書機能にとどまらず、文法解説や例文検索、発音練習といった多機能を兼ね備え、学習者の自律学習を強力にサポートしています。こうしたツールは、学習者にとって心強いパートナーと言えるでしょう。
CASIOは、電子辞書をはじめとする先進的な教育ツールの開発において、日本語教育界で確固たる存在感を示しています。特に、学習者に寄り添った直感的な操作性や、多様なコンテンツを収録した製品は、多くの教育現場で高く評価されています。これらのICTツールが、AIやビッグデータの力を活用し、個別学習への対応がさらに進化する未来を大いに期待しています。
日本語教育の目的は、言語習得を超え、学習者が異文化間で豊かなコミュニケーションを築く力を養うことです。CASIOが持つ最先端の技術力は、この目的を達成するための大きな力になると確信しています。例えば、AIによるリアルタイム翻訳や発音指導に特化した機能がさらに進化すれば、学習者の利便性と学習効果は飛躍的に向上することでしょう。
これからも、ICT技術の可能性を追求しながら、日本語教育の未来を描き、CASIOや教育関係者の皆さんとともに、新たな学びの形を創造していきたいと願っています。